令和8年4月15日
今年度も始まり気になる助成金の情報について今日は令和8年度(2026年度)のキャリアアップ助成金について、前年度(令和7年度)からの主な変更点や実務上の違いをまとめました。自社でパートタイム労働者や有期雇用労働者の正社員化・処遇改善をご検討中の担当者様は、申請前に必ずご確認ください。
1. 正社員化コースに「情報公表加算」が新設(令和8年4月8日以降)
令和8年度における最大の変更点のひとつが、令和8年4月8日より正社員化コースに新設された「情報公表加算」です。 有期雇用労働者等を正社員へ転換(または派遣労働者を直接雇用)する制度について、自社のウェブサイトや厚生労働省が運営する「職場情報総合サイト(しょくばらぼ)」に所定の情報を公表することで、助成金が上乗せされます。
- 加算額: 1事業所当たり20万円(大企業は15万円)※1回のみ。
- 公表すべき情報: 以下の3点をすべて公表する必要があります。
- 制度の概要(手続き、要件、実施時期)
- 直近3事業年度に正社員転換または直接雇用した労働者の数
- 直近3事業年度における、雇入日から転換・直接雇用されるまでに要した「平均期間」および「最短期間」
- 公表の要件 : キャリアアップ計画期間中かつ支給申請日までに公表を行い、少なくとも支給申請事業年度の終了までは、公表を継続することに同意する必要があります。
2. 「社会保険適用時処遇改善コース」の廃止と新コースへの移行
『短時間労働者労働時間延長支援コース』の新設について
令和7年度末で旧「社会保険適用時処遇改善コース」が廃止されたことに伴い、令和8年度以降に社会保険の適用等の取組を行う場合は、当分の間の暫定措置として新設された「短時間労働者労働時間延長支援コース」を活用することになります。
雇用する短時間労働者を新たに社会保険に加入させるとともに労働時間の延長等を行った場合(1年目の取組)、およびその後さらにキャリアアップ等の取組を行った場合(2年目の取組)に助成されます。
■ 1年目の取組内容と支給額(対象労働者1人当たり) 新たに社会保険の被保険者要件を満たし加入させる際に、以下のいずれかの取組を行った場合、小規模企業(※)は50万円、中小企業は40万円、大企業は30万円が支給されます。
- 週所定労働時間を5時間以上延長する
- 週所定労働時間を4時間以上5時間未満延長し、基本給を5%以上増額する
- 週所定労働時間を3時間以上4時間未満延長し、基本給を10%以上増額する
- 週所定労働時間を2時間以上3時間未満延長し、基本給を15%以上増額する
※小規模企業とは、常時雇用する労働者数が常態として30人を超えない企業を指します。
■ 2年目の取組内容と支給額(対象労働者1人当たり) 1年目の取組を行った後、さらに以下のいずれかの措置を講じた場合、小規模企業は25万円、中小企業は20万円、大企業は15万円が支給されます。
- 労働時間をさらに2時間以上延長する
- 基本給をさらに5%以上増額する
- 昇給、賞与、退職金制度のいずれかを新たに適用する
短時間労働者労働時間延長支援コースの新設については難易度は高い?
「短時間労働者労働時間延長支援コース」の難易度について、一概に「高い」と断言することはできませんが、企業の現在の労務管理の実態や、今後の人件費の負担見通しによっては一定のハードル(難易度)があると言えます。
具体的に、企業にとってハードルとなり得る主な要件や留意点は以下の通りです。
1. 労働時間延長の厳密な比較要件(実労働時間と所定労働時間の比較) 労働時間の延長は、単に雇用契約書上の「所定労働時間」を延ばせばよいわけではありません。原則として、「延長前6か月の週当たりの平均実労働時間」と「延長後6か月の週所定労働時間」の差が規定の時間(5時間等)以上ある必要があります。 そのため、シフト制などで「契約上の時間は短いが、実態としては既に長く働いている(実労働時間が長い)」といったケースでは、要件を満たせない可能性があります。
2. 大幅な基本給の増額(賃上げ)が必要になる場合がある 週所定労働時間を「5時間以上」延長する場合は時間の延長のみで助成対象となりますが、延長時間が5時間未満の場合は、延長時間に応じてセットで基本給の増額が求められます。
- 4時間以上5時間未満延長:基本給5%以上増額
- 3時間以上4時間未満延長:基本給10%以上増額
- 2時間以上3時間未満延長:基本給15%以上増額 このように、延長時間が短いほど大幅なベースアップが必要となるため、人件費の負担増を慎重に検討する必要があります。
3. 社会保険への加入が必須であること 本コースは、対象労働者を新たに社会保険(健康保険・厚生年金保険)に適用させることが必須です。社会保険の任意適用申請を行っていない未適用事業所の場合は、まず任意適用を行った上で適用事業所となり、対象労働者を加入させる手続きが必要となります。
4. 「2年目の取組」によるさらなる処遇改善の負担 2年目の取組(追加の助成金)を受けるためには、1年目の取組後にさらに上記の2年目の取り組み内容のいずれかの措置を講じる必要があり、企業側への継続的な負担が求められます。
5. 厳密な労務管理と書面の整備 これらの要件を満たしていることを証明するため、延長前後の雇用契約書(労働条件通知書等)で週所定労働時間や社会保険加入状況を明確にし、出勤簿や賃金台帳等によって労働時間や賃金の支払い状況(基本給や定額の手当を減額していないこと等)を正確に管理・記録しておく必要があります。
以上のように、単なる書類上の手続きだけでなく、「実労働時間等の厳密な管理・計算」「将来を見据えた人件費増加の許容」「就業規則等の適切な整備と運用」が求められるため、事前の綿密なシミュレーションや計画の策定が重要となります。
3. 【令和8年10月以降】賃金3%増額要件における「選択制企業年金」等の取扱い変更
正社員化コースで求められる「転換前後での賃金3%以上の増額」の計算ルールが、令和8年10月1日以降の正社員転換等から変更されます。
- 変更のポイント: 企業型確定拠出年金(選択型)の事業主掛金(掛金運用額)は、労働基準法や雇用保険法等において賃金に該当しないことなどから、賃金3%増額の算定対象外となります。
- 注意点: 令和8年9月30日までに転換等を行った場合は変更前の取扱いが適用されますが、秋以降に転換を予定しており、選択制企業年金や生涯設計手当等を導入している企業は、計算方法の見直しにより「3%増額要件」を満たせなくなるリスクがないか、事前のシミュレーションが必要です。
4. 最後に
キャリアアップ助成金の審査は、近年非常に厳格化されていると言えます。
制度の基本要件自体が急激に難しくなったわけではありませんが、不正受給の防止や制度の適正な運用のために、労働局による審査の目や、書類提出時のルールが非常に厳しくなっています。
申請前には、キャリアアップ計画書の内容、労働条件通知書、出勤簿、賃金台帳などの整合性が完全に取れているか、そして賃金3%増額などの要件を確実に満たしているかを、事前のシミュレーションを含めて極めて慎重に確認する必要があります。