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~賃上げ・設備投資・リスキリングが鍵となる一年へ~
はじめに:予算概算要求とは?
厚生労働省より、令和8年度(2026年度)の予算概算要求が発表されました。 「概算要求」とは、各省庁が財務省に対して「来年度はこれだけの予算が必要です」と要望を出す手続きのことです。例年8月末に公表され、これを見ることで「国が来年度、どこの分野に力を入れ、どんな助成金を新設・拡充しようとしているか」という方向性が明確に見えてきます。
今回は、中小企業の経営に直結する「助成金」の最新動向について、経営者様が知っておくべきポイントを絞って解説します。
1. 全体像:「賃上げ」と「生産性向上」のセット支援が加速
厚生労働省の一般会計予算要求総額は34兆7,929億円(前年度比約4,865億円増)となりました。 中でも注目すべきは、中小企業の賃上げを強力に後押しする「『賃上げ』支援助成金パッケージ」です。単に雇用を守るだけでなく、「人への投資(訓練)」と「設備投資」を組み合わせ、生産性を高めて賃上げを実現する企業を重点的に支援する姿勢が鮮明になっています。
2. 注目の助成金:変更点と新設のポイント
今回の要求案における、主要な助成金の変更・新設ポイントは以下の通りです。
① 人材開発支援助成金(予算要求額:539億円)
社員のスキルアップ訓練を支援する助成金ですが、今回は「設備投資」への支援が加わる点が大きなニュースです。
• 【新設】設備投資助成(人への投資促進コース内) 中小企業が従業員に訓練を受けさせ、その成果を活かして生産性向上に資する機器・設備等を導入した場合に、経費の一部が助成されます。
◦ 助成率: 50%
◦ 上限額: 最大150万円
• 【新設】中高年齢者実習型訓練(仮称) 45歳以上を対象とした、座学(OFF-JT)と実習(OJT)を組み合わせた実践的な訓練コースが新設されます。
• 【拡充】事業展開等リスキリング支援コース 今後3年以内の人事構想に基づき、将来必要となるスキルを習得させる訓練も対象に追加されます。
② キャリアアップ助成金(予算要求額:1,022億円)
非正規社員の正社員化を支援する定番の助成金です。
• 【新設】非正規雇用労働者の情報開示加算 「正社員化コース」において、自社の非正規雇用労働者に関する情報(賃金体系や教育訓練など)を新たに開示(リスキリングや処遇改善の取組状況など)した場合、1事業所あたり20万円が加算される予定です。
③ 業務改善助成金(予算要求額:35億円)
最低賃金の引き上げと設備投資を行う際の助成金です。
• 【変更】コース再編 賃金引上げ額に応じたコース区分が、現行の4コースから3コースに再編される見込みです。
• 【拡充】特例措置 地域別最低賃金の改定日前日までの一定期間について、事業場内最低賃金との差額要件に対し、地域の実情に応じた特例措置が講じられる予定です。
④ 働き方改革推進支援助成金(予算要求額:101億円)
労働時間の短縮や有給休暇の取得促進に向けた環境整備を支援します。
• 【拡充】賃上げ加算の強化 小規模企業において、対象労働者の賃金を5%または7%引き上げた場合の加算額が拡充されます。
⑤ 早期再就職支援等助成金(予算要求額:中途採用拡大コース10億円など)
• 【拡充】中途採用拡大コース 中途採用を拡大し、採用者の賃金を前職より5%以上上昇させた場合に助成されるほか、生産性向上等に取り組む場合の加算措置が実施されます。
3. 今後のスケジュールと注意点
今回ご紹介した内容はあくまで「概算要求(厚労省から財務省へのリクエスト)」の段階であり、決定事項ではありません。
• 今後の流れ
1. 2025年末: 政府予算案の決定(ここで査定が入り、金額や要件が変更される可能性があります)
2. 2026年1月~3月: 国会審議・予算成立
3. 2026年4月1日以降: 新制度の施行・申請受付開始
正式な要件や助成額は、予算成立後に発行されるパンフレット等で必ず確認する必要があります。
4. 社労士からの提言:経営者が「今」準備すべきこと
今回の概算要求を見て、経営者の皆様に強くお伝えしたいのは、「賃上げ5%」と「設備投資×訓練」の準備です。
① 「賃上げ5%」を前提とした経営計画を 多くの助成金で、賃金を「3%」ではなく「5%以上」引き上げた場合に加算や要件緩和などの優遇措置が設けられています。物価高への対応も含め、来年度は5%の賃上げを実現できるかどうかが、助成金を最大限活用できるかの分かれ目になりそうです。
② 「人への投資」と「設備」をセットで考える これまでは「設備投資はものづくり補助金(経産省)」、「訓練は人材開発支援助成金(厚労省)」と分かれていましたが、今回の改正案では厚労省の助成金でも設備投資が対象になる予定です。 「新しい機械を入れる(設備)」だけでなく、「それを使いこなすための研修を行う(人)」というストーリーを描くことで、生産性を高めつつ、助成金の受給可能性も高まります。
③ 情報開示への対応 キャリアアップ助成金の新加算に見られるように、非正規社員等の処遇情報をオープンにすることが、採用力強化だけでなく助成金受給の要件にもなってきています。自社の規定や待遇を今のうちに整理しておきましょう。
助成金は「後出し」では貰えません。来年度の計画を立てる今こそ、これらの情報を参考に準備を進めていただければ幸いです。
